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人間は好きなものを選ぶのではない、自分で選んだものを好きになるのだ

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「上昇スパイラル(The Upward Spiral)」って本を読みました。「脳の仕組みを知ってうつ病を治そう!」みたいな本で、著者はUCLAの神経学者さんであります。基本的にはうつ病の患者さんを対象にした本なんですが、臨床試験にもとづいたアドバイスが豊富で、普通に毎日の幸福レベルを高めるためにも使えそう。具体例をざっくりまとめてみます。

 

 

1.感謝!感謝!感謝!

うつ病の治療によく使われるクスリといえば、ウェルバトリンとプロザック。なんでこの2つが効くのかというと、

 

  • ウェルバトリン=脳内にやる気物質(ドーパミン)が増える
  • プロザック=脳内に精神の安定物質(セロトニン)が増える

 

といった効果があるから。著者によれば、この2つの効果を自然にもたらすのが「感謝だというんですな。

 

「感謝」がもたらすメリットは、ドーパミンのシステムに関係している。感謝の気持ちは、ドーパミンを産み出す脳幹エリアを活性化させるからだ。

 

さらに他者への感謝は、社会的なドーパミン神経系も活性化する。その結果、他人とのコミュニケーションがより楽しくなる。

 

また、セロトニンにつきましては、

 

感謝はセロトニンの分泌量を増やす強力な作用がある。感謝の対象について考えることで、自動的に人生のポジティブな側面に意識が向かうのだ。このシンプルな方法を使うだけで、前帯状皮質のセロトニン産生は増える。

 

とのこと。とにかく何かに感謝するだけで、抗うつ剤と同じ効果が得られるんだ、と。

 

 

とはいえ、メンタルが沈んでるときは「感謝するものなんて何もないよ!」と思っちゃいがちですが、別に感謝の対象が見つからなくてもいいらしい。

 

大事なのは、感謝の対象を見つけ出すことではない。まずは感謝の対象を探し始めるだけでいいのだ。

 

感謝の気持ちを思い出す作業は、心の知能指数を構成する要素のひとつだ。ある研究によれば、感謝の気持ちには前頭前皮質や視床下部の神経を増やす効果があるらしい。この変化は、心の知能指数が高くなれば、同時に脳神経の伝達効率も上がることを示している。

 

気持ちがへこんだときは、とりあえず「何か感謝できるものは…」と考えるだけでもいいわけですね。ほかにも感謝の気持ちには、脳のポジティブな回線が強化したり、カリスマ性を高めたりタフな心を育てたりしますんで、困ったときは思い出してみるといいかも。



 

 

2.ネガティブな感情に名前をつける

いくら感謝が大事とは言っても、いったん怒りや不安に乗っ取られちゃうと気持ちを切り替えるのは難しいもんです。

 

 

そこで本書がオススメするのが「ネガティブな感情に名前をつける」テクニック。いま自分が味わっている感情に、「怒り」「悲しみ」「不安」などの名前をつけていくわけですね。

 

ある脳波研究では、参加者たちに様々な表情を浮かべた顔写真を見てもらう実験が行われた。当然ながら、参加者の扁桃体(脳の感情をつかさどるエリア)は写真の表情に応じて活性化した。

 

ところが、その際に参加者たちに「感情を言葉に置き換えてください」と指示したところ、前頭前皮質が活性化して扁桃体の活動が減った。つまり、感情に名前をつけたことで、感情がもたらすインパクトが減ったのだ。

 

感情に名前をつけてやるだけで理性的な脳が活性化し、ネガティブな気持ちをコントロールしやすくなったわけですね。このあたりは、ネガティブな感情を紙に書き出す「筆記開示」に似てますし、「嫌な気分から抜け出すコツは『感情に名前をつけてあげる』こと」ってデータもありまして、かなり広く認められたテクニックみたいっすね。

 

 

3.何でもいいから自分で決断をする

さらに著者がオススメするのが「決断」であります。「今日は英語の勉強をする!」でも「午後からお菓子を食べない!」でも何でもいいんで、とにかく身近な問題に対して解決策を打ち出すのがポイント。

 

「決断」は意思決定やゴール設定などの要素をふくむ行為だ。この3つの行為は前頭前皮質の同じ回路を使っており、それぞれが良い方向に脳を活性化させるた、心配や不安などのネガティブな感情が減る。

 

また「決断」には、線条体の活動を抑える働きもある。線条体は、ヒトの脳にネガティブな衝動を抱かせるエリアだ。

 

同じように、「決断」は問題の解決策を見つけることで大脳辺縁系も鎮めてくれる。

 

 確かに何も決まってない状態って本当に苦痛ですからねぇ。とりあえずでも何らかの決断をしたほうが楽なのはよくわかります。

 

 

さらに、「決断」はネガティブな感情を減らすだけではなく、ドーパミンを出して気持ちをあげる作用もあるんだそうな。

 

自発的な決断は、脳の注意力に関する回路に影響をあたえ、行動に対して前向きな感情を生みやすくする。その結果、ドーパミンの分泌量が増えるのだ。

 

面白いことに、強制的にエクササイズを行った人は、ほとんどが運動のメリットを得られない。自分で行った決断ではないため、エクササイズがストレスになってしまったのだ。

 

自分の意思で決めた行動でない限りネガティブな感情は減らず、ドーパミンの喜びも得られないわけですね。著者いわく、

 

人間は好きなものを選ぶのではない、自分で選んだものを好きになるのだ。

 

とのこと。いいことをおっしゃいますねぇ。

 

 

4.人に触る

とにかく孤独は脳と体へのダメージが大きいんで、他人との触れ合いが大事。

 

実際、ある脳波実験では、孤独が身体の痛みと同じ神経回路を活性させることがわかった。実験の参加者を仲間はずれの状態に置いただけで、前帯状皮質が活性化し、現実の身体の痛みと同じ感覚が生まれたのだ。

 

 この問題を解決するのが、当ブログではおなじみのオキシトシンであります。愛情や信頼の感情を呼び起こす脳内ホルモンで、分泌量が増えると人見知りが治る!」とか「コミュニケーション能力が上がる!」などと言われております。

 

もっとも手軽にオキシトシンを増やすのは「触れ合い」だ。もちろん、無差別に他人にさわってはいけないが、握手や肩をたたくぐらいなら問題ないはず。親しい人とはもっと触れ合ったほうがよい。

 

実際、結婚した女性を対象にした調査によれば、夫と手をつないだ状態で電気ショックを受けると、何もせずに電気ショックを受けたときよりも痛みを感じにくくなったんだとか。オキシトシンには、ストレスへの抵抗性を強める効果がかなりあるみたい。

 

 

また、「俺には触れ合う相手なんかいないよ!」という孤独な方もご安心を。著者いわく「マッサージ」でもオキシトシンは出るそうな。

 

実験の結果は明確だった。マッサージを受けた参加者は、セロトニンの量が30%も増えていたのだ。

 

さらにマッサージにはストレスホルモンを減らし、ドーパミンのレベルを高める作用がある。マッサージで身体の痛みが減るのは、オキシトシンシステムが鎮痛作用を持つエンドルフィンの分泌を増やすからだろう。その結果、疲労や睡眠の質を改善する効果も得られるわけだ。

 

とのこと。マッサージにはホルモンバランスを調整する効果があるわけですねー。

 

 

まとめ

そんなわけで最新の脳神経科学にもとづく幸福術を見てみました。 ちなみに、なぜ本書のタイトルが「上昇スパイラル」なのかというと、

 

すべてはお互いにつながっている。感謝は睡眠の質を上げ、良い睡眠は痛みを減らす。痛みが減れば気分が良くなり、気分が晴れれば不安が減り、集中力や計画能力がアップする。集中力と計画性は意思決定の能力を上げ、意思決定の改善はさらに不安を減らして喜びを増やす。喜びは感謝の気持ちを高め、すべては上昇スパイラルの軌道に乗っていく。

 

ってことらしい。「風が吹けば桶屋が儲かる」の幸福バージョンっすね。これはちょっと意識しておきたいところです。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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